19世紀イギリスの雰囲気を感じられる映画10選! ヴィクトリアンの時代を堪能しよう。

みなさんは、家具やアクセサリーなどの説明で「ヴィクトリアン調」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

ヴィクトリアン調とは、1837年〜1901年にヴィクトリア女王がイギリスを統治していた時代のシックで落ち着きのある様式のことを指しています。
この時代の大英帝国は、繁栄をきわめた黄金期だと言われています。

今回は、そんな19世紀のイギリスの雰囲気を感じることができる映画を10本選びました。
映画を通して、当時の時代感を感じていただけたら幸いです。

一番最後に少しだけ19世紀のイギリスを解説しています。ご興味がありましたら、映画とあわせてご覧ください。​

19世紀前半

メアリーの総て

ジャンル 恋愛、伝記
舞台 ロンドン
年代 1814年〜
キーワード

  • 駆け落ち
  • 作家
  • ゴシック小説
  • ディオダティ荘の怪奇談義

あらすじ
 ロンドンで本屋を営む父と、女権拡張思想家の亡き母を持つメアリー。義母とうまくいかないメアリーは、スコットランドの知人の家で暫く暮らすこととなった。そこでパーシー・シェリーと出会い、二人は恋に落ちる。だが妻子持ちのシェリーとの交際を父母に反対され、メアリーは義理の姉妹のクレアを連れて三人で駆け落ちする。

ポイント
 わずか18歳にしてフランケンシュタインを執筆した作家、メアリー・シェリーの伝記恋愛映画です。
監督はサウジアラビア出身のハイファ・アル=マンスール。メアリーを演じるのは歳の近いエル・ファニングです。
3年間を121分に纏めているため省かれたり改変されたエピソードは少なからずありますが、メアリーの人生の大筋は捉えています。

19世紀初頭の流行りの婦人服は、ウエストの切り替えが高い位置にあるエンパイア・スタイル
紳士服はコート、ウエストコート(ベスト)、クラバット(ネクタイ)という出で立ちです。

現代にはベストの一番下を留めないというアンボタンマナーがありますが、 「メアリーの総て」の紳士は基本的に下まで全部留めていますね。この時代に限らず、暫く先の時代になってもボタンは全部留めてることが多いです。

アンボタンマナーの起源は諸説ありますが、エドワード7世(1841-1910、在位1901-1910)がその体格のために一番下のボタンを留められなかったのを国民が真似するようになった、などの説がまことしやかに語られています。

パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト

ジャンル 伝記
舞台 ロンドン
年代 1830年代
キーワード

  • 演奏家
  • 中流階級
  • 劇場
  • ジャーナリスト

あらすじ
 超絶技巧を持つ、イタリアのヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニ。ロンドンの指揮者ジョン・ワトソンは、イギリス国外で絶大な人気を博している彼をロンドンへ招待しようとするが、次々と困難に見舞われる。

​ポイント
バーナード・ローズ監督作品で、実在した天才ヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニの半生を描いた音楽伝記映画です。

主演のパガニーニ役は速弾きのヴァイオリニストのデイヴィット・ギャレットが、パガニーニのマネージャー役はジャレッド・ハリスが演じます。

ニコロ・パガニーニは史上最高のヴァイオリニストと称されることもあり、その類稀なる技巧は、当時の人々が「悪魔と契約して手に入れた」と噂するほどでした。
1秒間に12音を演奏できたとされるパガニーニですが、彼を演じるのは1秒間に13音演奏できるデイヴィット・ギャレット。作中では実際にパガニーニ作曲の超絶技巧曲を演奏しています。

オリバー・ツイスト(2005)

ジャンル ドラマ
舞台 マッドフォグ(架空)、ロンドン
年代 1834年〜1837の間とみられる
キーワード

  • 救貧院
  • 孤児
  • 窃盗
  • 娼婦

あらすじ
 救貧院で生まれ育った孤児のオリバー・ツイストは、売られた先の葬儀屋での扱いに耐えかねて、ロンドンへ逃亡する。ロンドンでユダヤ人のフェイギンの元でスリとして生きるが、ある日スリ仲間の罪をかぶってしまう。最終的に罪は晴れ、被害者のブラウンロー氏に引き取られて幸せに暮らすが、外出したオリバーをフェイギンが再び捕まえる。

ポイント
 オリバー・ツイストはこれまでも数回映画化されています。2005年公開の本作は、ロマン・ポランスキー監督版です。

イギリスで16世紀から始まった救貧法は、1834年に大幅に改正されました。1834年以降の救貧院は、朝六時からの労働と粗末な食事、同じ制服を着せられ監視されるなどほとんど監獄のような様相を呈していました。そのため「貧困者の監獄*」とも呼ばれました。

「オリバー・ツイスト」はチャールズ・ディケンスによって1837年から書かれた小説です。ディケンスは作品を通してこの窮状をもたらした新救貧法を批判したと言われています。

*参考書籍:「ヴィクトリア朝の女性の暮らし」(河出書房新社)

ヴィクトリア女王 世紀の愛

ジャンル 伝記、恋愛
舞台 ロンドン(ケンジントン宮殿、バッキンガム宮殿)
年代 1836年〜
キーワード

  • 宮殿
  • 政治
  • 戴冠式

あらすじ
 1830年、11歳の幼きヴィクトリアは自分が王位継承者だと知った。ヴィクトリアの母ケント公女の相談役コンロイは、ヴィクトリアに摂政を認めさせ、権力を握りたいと考えるが、ヴィクトリアは頑として断り続ける。数年後、成人を間近に控えるヴィクトリアのもとに、政略結婚を企むベルギーのレオポルド1世から送り出されたアルバートが来訪する。

ポイント
 おしどり夫婦として有名なヴィクトリア女王とアルバート公子の恋物語を、ジャン=マルク・ヴァレ監督が描きます。

若い頃の2人の関係に焦点を絞っており、脚色された点はあるものの、大部分は歴史通りです。
アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞したこだわり抜かれた衣装が素敵な映画です。

映画の中でヴィクトリアはよくキングチャールズスパニエルのダッシュと一緒にいますが、これには理由があります。
ヴィクトリアはケント公女とコンロイが定めた「ケンジントン制度」という厳しい取り決めの元で生活しており、即位するまで遊び相手はたった2人しかいなかったといいます。しかも片方はコンロイの娘でした。

ケンジントン制度は、本来は女王がコンロイに従属することを狙って作られました。しかしあまりにも厳しすぎたため、女王はケント公女とコンロイを嫌う結果となりました。

アンモナイトの目覚め

ジャンル 恋愛ドラマ
舞台 ドーセット州(ライム・レジス)
年代 1840年代
キーワード

  • 化石
  • 労働者階級
  • 田舎
  • 音楽の夕べ

あらすじ
 古生物学者のメアリー・アニングは、ライム・レジスの海岸で収集した化石を売って生活していた。ある日ロンドンから化石収集家ロデリック・マーチソンが訪れ、うつを患う妻シャーロットをライム・レジスで療養させるので、数週間の間、目をかけてほしいと頼む。人嫌いのアニングはシャーロットを突き放すが……。

ポイント
 12歳の若さでイクチオサウルスの化石を発見したが、19世紀の階級社会・男性社会により論文発表はかなわず、名声が失われつつあったメアリー・アニングを描いた恋愛ドラマ映画です。監督はフランシス・リー氏 、メアリー役をアカデミー賞主演女優賞受賞歴のあるケイト・ウィンスレットが演じています。

労働者階級者が発見した化石は、中流以上の収集家が購入し発表していました。発表時に購入者の名前が添えられること、つまり発見者の名前が添えられないことは当時の常だったようですが、有名であったアニングもしばしばその目に遭いました。

アニングもシャーロットも実在した人物ですが、とりわけアニングの詳細な人物像については記録がなく、よくわかっていません。そのため監督は伝記ではなく、事実から想像したメアリー・アニングを描いたそうです。

19世紀後半

ガス燈(1940)(1944)

ジャンル サスペンス
舞台 ロンドン(ソーントン広場/架空)
年代 1865年以降(1940年版)、1875年以降(1944年版)
キーワード

  • ガス燈
  • 音楽の夕べ
  • ロンドン塔
  • 警察

あらすじ
 世界的歌手で、ポーラの育ての親である叔母が絞殺された。ポーラは事件を忘れるためのイタリア留学中に作曲家のグレゴリー・アントンと恋に落ち、結婚。グレゴリーの提案通りに、叔母が住んでいたロンドンの家へ戻ったポーラだったが、次第に記憶の欠如、幻覚、幻聴に悩まされるようになる……。

ポイント
「gaslighting(ガスライティング)」という心理学用語(ネタバレとなるので説明は控えますね)の語源となったのが、映画「ガス燈」です。

「ガス燈」にはイギリス製作の1940年ソロルド・ディキンソン監督版とアメリカ製作の1944年ジョージ・キューカー監督版がありますが、細かい差異はあるもののどちらも大まかなストーリーは同じです。

切り裂き魔ゴーレム

ジャンル ホラーミステリー
舞台 ロンドン(イーストエンド)
年代 1880年代頃
キーワード

  • ミュージックホール
  • 裁判
  • 警察

あらすじ
 ロンドン。スコットランド・ヤードのジョン・キルデア警部は、川近くのライムハウス地区の連続殺人犯「ゴーレム」を追っている。
ゴーレムの最後の犯行と同じ日の夜に夫ジョン・クリーを毒殺したとして、女優エリザベス・クリーが逮捕される。犯人が犯行現場に残した一文から、ゴーレムの容疑者の1人にジョン・クリーが浮上する……。

ポイント
 監督フアン・カルロス・メディナ、主演ビル・ナイ「切り裂き魔ゴーレム」は1994年の小説を翻案としたフィクション作品です。

ゴーレムの容疑者とされた4人のうち、ジョン・クリーを除く3人(カール・マルクス、ジョージ・ギッシング、ダン・リーノ)は実在した人物です。
歴史上、「ダン・リーノ」という芸名がロンドンで初めて使われた1884年には、カール・マルクスは亡くなっています。
こういった実際は起こり得ないことが起きるのも、フィクションの良いところですね。

エレファント・マン

ジャンル 歴史ドラマ
舞台 ロンドン(ホワイトチャペル)
年代 1880年代
キーワード

  • 病院
  • フリークショー
  • 新聞

あらすじ
 外科医フレデリック・トリーヴスは、見世物小屋で「エレファント・マン」と呼ばれるジョン・メリックの身体的特徴に興味を持ち、病院に彼を住まわせ様子を見る。何も話さないメリックのことを知能が弱いせいだと思っていたトリーヴスだが、ある日メリックが知らないはずの聖書の一節を朗読しているのを耳にし、考えを改める。その後新聞によってメリックは有名となるが……。

ポイント
 デヴィッド・リンチ監督による、実話を元にした映画がこの「エレファント・マン」です。
主役のジョン・メリックをジョン・ヴィンセント・ハートが、トリーヴス医師をアンソニー・ホプキンスが演じています。
登場人物の名前やストーリーは脚色してありますが、大筋は実話に沿っています。

ジョン・メリックの特殊メイクは、セットに膨大な時間がかかりました。
当時の米アカデミー賞には対応する部門がなかったため特殊メイクでの受賞はなりませんでしたが、その翌年にメイクアップ賞が新設されるきっかけとなりました。

プレステージ

ジャンル サスペンス、ミステリー
舞台 ロンドン、コロラドスプリングズ(アメリカ)
年代 1890年代
キーワード

  • 手品
  • 法廷
  • 劇場
  • 監獄

あらすじ
 奇術師の弟子であるアンジャーとボーデン。ある日のステージ中、助手でありアンジャーの妻でもあるジュリアが事故により溺死する。アンジャーはボーデンのミスが彼女の命を奪ったと考え、ボーデンを憎むようになる。アンジャーは一般客に扮し、ボーデンの公演で復讐を果たす。後日、ボーデンはアンジャーのステージで同じように報復する。二人の苛烈な競争に周囲も巻き込まれていく。

ポイント
 「インセプション」「TENET テネット」などヒット作を多数輩出してきたクリストファー・ノーラン監督が2006年に制作した本作は、ヒュー・ジャックマンクリスチャン・ベールが主役の2人を演じたほか、デヴィッド・ボウイも出演しています。

中世では黒魔術とみなされ、魔女狩りの対象ともされていたマジックですが、19世紀半ばに登場した「近代奇術の父」ロベール・ウーダンによってそれまでの暗いステージ演出は一変しました。奇術師は燕尾服を着、明るいステージで手品を演じるようになりました。

「プレステージ」は主に1899年頃を舞台としたフィクション映画ですが、作中に登場したチャン・リン・スーは実在した人物となっています。彼はまた、作中にも登場した「弾丸受け止め術」によって命を落とした1人でした。

シャーロック・ホームズ(2009)

ジャンル アクション、ミステリー
舞台 ロンドン(ベイカー街等)
年代 1890
キーワード

  • 猟奇殺人
  • 警察
  • 黒魔術

あらすじ
 5人の婦女が犠牲となった連続殺人事件は、ホームズとワトソンの活躍により解決した。3ヶ月後、逮捕されたブラックウッド卿の死刑執行当日。面会に訪れたホームズに対し、ブラックウッド卿は死後の復活と「あと3人死ぬ」と予言する。絞首刑は滞りなく執行されたが……。

ポイント
 「バリツ」という格闘技の使い手であるホームズと、元軍人(軍医)であり、射撃の名手ワトソン。それらを巧みに膨らませたガイ・リッチー監督版「シャーロック・ホームズ」は、2009年の全世界興行収入ランキングトップ10に食い込む大ヒット作となりました。

配役はそれぞれ、ロバート・ダウニー・Jr(ホームズ)と、ジュード・ロウ(ワトソン)です。

作中、シャツ一枚のホームズが馬車の中でワトソンのベストを着ようとするシーンがありますが、当時のイギリスでは、シャツの上にベストを着るのは当然のマナーでした。シャツや、ズボンを吊るためのサスペンダー(イギリスでは「ブレイシーズ」といいます)は下着という扱いだったのです。

19世紀イギリスってどんな時代?

18世紀に興った産業革命と植民地の拡大によって、19世紀、イギリス帝国は世界の覇権を握ります。
その領土は広大で、「常に領土のどこかには陽が昇っている」という意味で 「太陽の沈まぬ国」と言われていたほどでした。

産業革命にともなって発達した蒸気船鉄道は、人々の生活を豊かにしました。
禁酒運動のあおりもあり、紅茶が労働者階級まで浸透。日常的に飲まれるようになりました。

また法整備が進み、19世紀前半には奴隷貿易奴隷制度が廃止に。ロンドンでは19世紀半ば頃から下水道公衆浴場が作られるなど、衛生状況の改善がみられるようになりました。
初等教育が義務化され、労働者階級家庭の子供達がちゃんと小学校に通えるようになったのも19世紀のことです。義務化以前は、労働に追われて行かせてもらえないことも多くありました。

階級制度は大きく分けて3つ。
上から、上流階級中流階級労働者階級です。

貴族や地主が占める上流階級。
金銭を得るための労働はせず、慈善活動や議会など公の仕事を無償で行っていました。
労働によって経済力を手に入れたのが中流階級。
層が厚いため、中流階級は更に上中下の層に分けられます。
肉体労働を生業とする人々が労働者階級
この階級の人々の実入りはよくありませんでした。

今回ご紹介した映画で言うと、

  • 上流階級………「ヴィクトリア女王 世紀の愛」の王室や貴族の面々
  • 中流階級………「パガニーニ」や「ガス燈」など、多くの作品に登場
  • 労働者階級……「アンモナイトの目覚め」メアリー・アニングや、様々な作品のメイドなど(他にも多数の作品に登場)

といった感じになります。

映画の中の19世紀イギリス、いかがでしたでしょうか。
あなたの琴線に触れる映画がありましたら幸いです。

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